自然な生活
その家族は食卓を囲んで一家団欒をしていた
話題は町の発見についてだった
今をときめく古代地下都市の発見に町は,沸いた
古代に秘められた歴史を研究者たちはきっと
ひも解いてくれるだろう
一家は食事を済ませてみんなで畑へ出た
小さな耕作地 でもぎりぎり食べていける
青い空 澄んだ空気
そのころ研究者たちは解読に没頭していた
「しかし,本当に過去こんな文明があったんでしょうか?」
若い研究者は懐疑的な口調でそう言った
太古世界は高度な文明を作っていたと伝説は言う
それが何故滅びたんだろうか?
それならば始めから伝説が物語の域を出ないとした方が
納得するくらいだ
年配の研究者は重い口を開いた
「実は町に伝えられている重大な事があるんだ」
彼が取り出したのはぺらぺらとした布のようなものが
均一に閉じられたものだった
長方形にきちんと切られたその姿は優美でさえあった
「何ですか?それは」
事の異様さに部屋にいた研究者は集まってきた
年配の研究者は話し始めた
「これは本と言うものだ。大量の樹木を使って
人の話を文字として記録したものだと私は聞いた。
人は太古、隣町まであっという間に行ってしまう
馬よりも早い乗り物や,鳥のように空を飛ぶ乗り物も
あったという。御伽話と笑わんでくれよ
これは研究者たるものが受け継ぐべき伝説なのだ」
若者たちは苦笑した
それは御伽話ではない,ホラ話だ!
かまわず話は続いた
「便利な,夢のような世界は神の怒りをかった
空気は汚れ人の体も汚れ,地球は神が滅ぼすと言われた
古代の政府は思いきって文明と言うものを切り捨てていった
自然に帰ろう・・・をスローガンに」
「どうやって?」
ニヤニヤしながら若い研究者は尋ねた
「人口物の廃棄と文字の禁止だ・・・」
人口物?現代の便利な道具はいっぱいある
包丁,金槌、はしご・・・
それ以上の文明の利器があったなどと・・・
文字の禁止?こうして解読に必死なのに
何故そんな事を・・・
満たされた現代に欠けたもの、それは
過去だ。文字に秘められた・・・
動揺する若者に最後の駄目押しがあった
「ごらんこの、ほん というものを・・・」
その布状のものをそっと開くとそこには
まるで現実のような精密な絵があった
見たこともない美しい・・・なんだろう?
どこの絵だろう?
若者は凍りついたように絵に見入った
横浜ベイブリッジ
「この文字が何を表しているのか
今は,まだ誰にもわからないがいつの日か君たちが
解読してくれ」
写真集 日本の風景2001 関東編
地下の部屋には無数の「ほん」があった
文字だけのもの、先ほどのような絵の入ったもの
世界は不思議に満ちている
若者は一層の研究に励むだろう
わかっている事はどんな高度な文明でも神の怒りに
触れる文明は滅びるのだ
同じあやまちを繰り返さない賢明さを持っていこう・・・
便利さを追求する事は神の怒りをかう・・・
2001・3・16
あとがき
ベイブリッジだけでなく私は都会の風景が好きです
田舎の風景は人の心を癒すというけれど
都会もまた人によっては同じ効果がある気がします
都会で育った人はその環境に馴染んでいるから
のんびりした田園風景が異世界であって
ゴミゴミして無機質なアスファルトの世界こそが
安心できる・・・それもまたいいんじゃないかと思います
ちなみに私は海に馴染んで育ったので
山は苦手です。野生児みたいなイメージがありますが(笑)
皆さんは海派?山派?都会派?町派? |