ショートすとーりー
思いやり軍隊U
一瞬昼間のように明るくなったと思ったら、それは敵襲だったらしい
あっという間に味方は息絶えてしまった
瓦礫の中,生き残ったのは私だけかと、まわりを見まわすが
眼鏡が爆風で飛ばされてよく見えなかった
老眼というけれど、この年では近く遠くに関わらず,見えはしない
体の一部として私を助ける眼鏡を失ったら、戦闘はまず無理である
立とうと思ったが思うように立てなかった
どこか怪我を負ったかと手足をみる
身体は傷はない
という事は身体がいう事をきかないのは単に疲れか
腹ばいのままポケットに手を当てると写真に触れた
出してみる
くしゃくしゃになってはいたが濡れていない
そこには愛する孫たちの笑顔があった
「おい!」
つかの間の孫との時間は破られた
自国の言葉に振り向くと、そこには敵国の兵士が銃口を向けて立っていた
兵士を見ると、とても若かった
そう、孫と同じ位のまだ少年のような・・・
「おまえだけか?他に生き残ったものはいるのか?」
若い兵士はたどたどしいが正確に私の国の言葉でたずねた
「多分,私だけだと思う」
周囲の悲惨な状況から兵士も納得したらしい
私は敵陣に連れていかれた・・・
尋問には私を捕らえた兵士が通訳としてついた
尋問をする兵士は彼の上官らしいが,その人物もまた若い
私の息子・・・いやもっと若いかもしれない
彼らの姿を見ていると、何か大声で言われ銃口が向けられた
通訳がすばやく言う「何を見てるんだ!質問に答えろ」
ああ、いけない。ぼうっとしていたらしい
最近はこんな事がよくある
感覚もずいぶん衰えてきた
そんな私の様子を見ていたらしい別の兵士が何か言った
(彼も若い)通訳が端的に述べる
「なぜお前の国は年寄りばかり軍に入るんだ?
若者は腰抜けなのか」
私はわが軍の入隊年齢が高齢の理由を語った
(そんな情報も知らないのか?情報は戦の核というのに)
若者が戦って死ねば、未来の国を作る者が絶えてしまう
だから・・・年寄りが戦うのだ
子どもを失うのはとても辛いのだ
私の説明を彼らは笑った
バカにしたように方をすくめた
「お前のような年寄りが戦ってもすぐ殺られる
軍は全滅だ。大事に守ったはずの国は若者もろとも・・・」
兵士は首を切る仕草をした
兵士のひとりが聞いた
「お前国のために死にに来たのだな」
「いや、私は国の為になど死にたくはない」
私の答えに少し驚いた後
彼らが一斉に笑い始めた
「年よりのうえ腰抜けとはな!
どうせもう時期寿命がくるんだろうに!
国の為に命かけられないって?」
しばらくして私は言った
「ひとつ聞いてもいいか」
「何だ」
「ここは何人くらいの部隊なんだ?
ここはどこなんだ?」
兵士が答えた
なかなかの規模だ
兵士達が歓談をし始めた
私に関心が薄れたらしい
今だ・・・
私は腹を触った
あった
それは体内に埋め込まれていた
皮膚をぐりっと動かす
かすかに痛んだが,大した事はない
手応えあり・・・!
***
ドドーン!
何かが爆発した
軍隊が陣を張っていた一帯は一瞬にして瓦礫の山になった
生存者はほとんどいなかった
***
薄れゆく意識の中
老兵はつぶやく
私は国の為になど死にたくはない
だが、かわいい息子と孫の為になら
喜んで死ねる
でも、一瞬心をよぎったのは敵兵士の
あまりにも若い姿だった
若者よ・・・なぜ
死にに来た!
悲しみを抱きつつ
老兵は消えた
***
戦争とは勝利も正義もない
ただ、悲しく、苦しいだけ
*****
チェチェンの独立関連のテロでまたロシア領が狙われ
先日のロシア機2機の墜落テロから1週間しか経たないのに
今度は学校に立てこもり子どもら400人を人質にするという事件が。
(注:数は本当は1200人だった!)
テロリストのメンバーにはまたも女性もいるらしいし
飛行機のテロ犯は女性らしいですね
女性が自爆テロに走る理由はただひとつ
夫や子どもを亡くした復讐では?
女性は国家やイデオロギーの為に死んだりはしないと思います
私が自爆テロなんてするとしたら?
理由はもちろん家族のため
これに尽きるでしょう
でもその復讐が新たな憎しみを生み
テロや戦争が連鎖してゆくのです
この10年で世界の状況は変わりました
危ないほうへ。
では次の10年は?
日本が戦火に巻き込まれていない事を願っています
2004/9/2
恩赦への恩返し
その男は100回死刑になってもおかしくないほど
多くの罪を負っていた。殺した人数、傷つけた人数、破壊した心の数
流れた血と涙の数・・・稀代の犯罪者だ
それでも彼は刑の執行を停止されていた
それは・・・かれの頭脳のためであった
彼の持つ知識は色々な事を生み出した
そうした開発されたモノの社会への貢献度を考慮しても
死刑は免れないが、問題は彼の頭脳がこれから先も役に立つという点だった
まだ開発途上の重要な研究も彼に託せば完成する項目は多い
報復を願う世論(遺族も含め)と国としてのメリットで
彼の処遇は停止していた
ある日・・・彼の刑の執行を永久に停止するという判決が下りた
その代わりに彼は生涯を拘束され
国の為にその頭脳を使うこととなる
時は流れた
彼も肉体はとうに衰えて、頭脳はまだ働いてはいたが
高度な回転はそろそろ望めなくなっている
そんな中彼の最期となるだろう研究を国は急がせていた
彼自身何かに憑りつかれたかのように没頭した
寝る間も惜しんで研究した結果それは完成した
彼は肉体の老いに勝てず、完成後、生命活動は停止した
だが・・・彼はこんな事を書き残した
「私を今まで生かしてくれたお礼しようをしよう」
そして半世紀も経たず・・・国は・・・いや星は滅びた
彼の残した研究それは最終兵器・・・
国を守る為の最強の武器を作る命を受けた彼は、それ以上の
素晴らしいものを作ったのだ
自らも滅ぼす神の剣
男は悪魔の使いだったのか
それとも・・・神の使いだったのか
今はもう誰も答える者はそこにはいない
********
単純に犯罪者がもしも社会に有益な能力を持っていたら?
という発想でしたが、金持ちが保釈される時保釈金を払いますよね
あれは逃亡したりすると没収する保証金ということらしいですが
貧乏人にはとても出来ない行為です
となると地獄の沙汰も・・・刑罰というものも金次第?
金持ちは罪を犯してもある程度許される・・・という私のひがみ(苦笑)
それを発展させて、では金銭でなく個人の能力ではどうだろうか
と考えました。償いは社会に貢献させる、というのは悪い考えではないです
けれど被害者にはやっぱり、ツライ事ですよね
例えばあの大阪の小学校の児童殺傷事件の犯人のような人間が
能力が高いからと免責になったら・・・?
人類を救うような発明をしたら?
社会のレベルアップ(文化の発達)よりもやはり秩序を優先しないと
人は(社会)崩壊してしまうでしょう。うん。罪は罪!2004/5/21
おんぶ坂
わたしはおとうさんがだいすきです
おとうさんは、あまりおしゃべりはしないけれど
やさしくて、しごとがおやすみのひには
いつもあそんでくれます
よるねるまえも、いつも、えほんをよんでくれます
大きくて下手だけれど、力強く書いた文字に
私の、父への愛がにじんでいるようにみえました
いつもやさしかった父
大きな手は暖かくいつも、私を包んでくれました
大好きだった父・・・
私の住んでいた近くに小さな山がありました
山といっても名ばかりで丘と言った方がいいでしょうか
小さい頃父がよく私を連れて、そこへ出かけました
父のにぎったぶ格好なおにぎりは、とてもしょっぱくて
でも、デコボコの山の上で食べる時
最高のごちそうでした。父の味、なつかしい味
山に続く坂はとても急で子どもの足には大変でした
父は、そんな私を途中で背負ってくれました
いつも・・・いつも
だからその坂道を私たちはいつのまにか
「おんぶ坂」と呼ぶようになったのです
母は私が覚えていないくらいの、小さい頃
出ていったそうです
どんな人だったか、一度だけ聞いた事があります
父は「とてもやさしくて、きれいな人だったよ」
そういったけれど、かなしそうに遠くを見たから
私は2度と母の話は聞きませんでした
父がいる・・・父だけでいい・・・そう心で決めていました
ある日突然、私は父を・・・いえ、昔の父を知る事となりました
私が彼との結婚話しに浮かれている時、です
彼のご両親から呼ばれて、家に伺いました
たぶん結婚の具体的な話しかしらと、どきどきしながら・・・
家に入ると、雰囲気がいつもと違っていました
笑いの耐えない彼のお母様、石頭と家で呼ばれるような
頑固親父風でいながら、実は気配りのあるお父様
そのお二人が、まるでお通夜のような神妙な顔で座っていらしたのです
「とても心苦しいのだけれど・・・息子と別れてくれないだろうか」
私は言葉の意味がわかりませんでした
彼・・・彼に何か?
「息子も、悩んで私たちの結論に従うといった。どうか・・・」
なぜだろう?彼に好きな女性でもできたのか
理由をきかせて下さいと、それしか私にはいう言葉はありませんでした
だって・・・もう別れが決まっていたんだから
おずおずとさしだだれた大きな書類袋
中を見ると誰かの身上書、履歴書?ああ、興信所の調査書類?
見るとその人物は10代の時凶悪犯罪を犯し長い時間を
社会から隔絶されていました
その事件は私の生まれるずっと昔の事件であっても
知っているような有名な事件でした
これがどうかしたのかしら・・・
青白い顔の少年・・・どこかで聞いたことのある姓・・・
私は背中に雷を受けたような衝撃を受けました
それは・・・父だったから
いえ・・・父じゃない!そんなはずはない!
母との離婚も書いてあり、母もまた父の過去で
悩んでしまったのでしょうか(書類での文章と本当の気持ちは
同じはずはありませんよね)
あとの事は覚えていません
何日経ったのか
職場へどうやっていったのか
ただ父に知られないように、彼と性格が合わなくなったから
と別れた理由をこじつけました
でも・・・私を気遣っていた父は
絶対に今までした事もないのに、私の部屋に入って
悩みの痕跡を探したんです
そして、あの書類を父が見てしまったのです
会社から帰ると父が電気もつけずに座っていました
「どうしたの?」駆け寄ると嗚咽・・・
「すまない・・・すまない」大きな父が小さく震えていました
私の目に浮かんでいたのは
幼い頃の父と歩いた山でした
私を背負って歩く父
おんぶ坂
父は重い十字架を背負っていたんですね
平凡なしあわせを得ても、だからこそ十字架が重かったに違いありません
忘れたくて、忘れられなくて、忘れてはいけない十字架
私がこれからどう生きるのか
わかりません
ただ、今度は私が父を背負って坂を登ろうと思います
頂上のない「おんぶ坂」を・・・
**********************
この話は、昨日医療少年院から出所したという神戸の
殺人事件の少年A(元というのでしょうか)の事を
考えていたら、彼が将来家庭を持ったら
どういう気持ちになるんだろう?
そしてもし子どもが生まれたら、その子は親の過去をどう感じるんだろう
と、そんな疑問が生まれて、書きました
実際にはこんな大事件でなくても、過去のある人が
たくさんいて、良き社会人、良き家庭人になっているでしょうけれど
立ち直る事は大変な事だと思います。本人や周囲の努力。環境
立ち直りができず犯罪や、色々な悪環境に戻る人もいるでしょう
Aという人がこれからどうなるのか
再犯はしないといいきれるのか
出所で終りではなく、これから・・・かもしれません
ところで。子どもの気持ちになると、自分の親がもしも
過去大罪を犯したとしたら?私の親への気持ちは変わるか
・・・たぶん変わらないと思います。ショックではあるけれど
自分勝手ですけれど、悪人であっても自分に良き親だったなら
素晴らしい親なんです。反対に社会的にどんなに素晴らしい
功績を残した人や良い人でも、私(子ども)を愛してくれない親なら
キライなんです(単純 笑)
被害者の家族の方も複雑な気持ちでおられると思います
命はかえらない
犯罪は被害者・加害者はもちろん両方の家族や周囲にも
大きな傷を残します。こんな犯罪もうおきないように
祈るばかり・・・・・2004/3/11
未知のウィルス
「それ」は空から落ちてきた
ありふれた隕石から発見された生命だった
初めての宇宙から飛来した「生命」に
人々は期待した
やっと長い時の果てに、私たちが兄弟を
持てるのか(例え今は滅びたとしても
これから進化する生命にしても、である
生きている、その証しが欲しいのだ)
それは、数多く石についていた
早速その正体の研究を始めた・・・・・
どの研究者も頭を抱えていた
「それ」は地球上のウィルスに似ていたが
特徴のつかめないものであった
害があるのかないのか
得体の知れない不気味さ・・・
一番不安を感じたのは「それ」が壊れない事だった
「どうだ?」
「マイナス200度現在。耐えています。変化なし」
「それ」は結局計測不能のレベルまで耐えた
他の高温や放射線など各種の「いじめ」に
耐えぬいたのだった
砂漠での核実験が行われる大国では
密かに「それ」を処分すべく目標地点に置かれた
・・・数時間後確認されたのは
跡形もない高温の爆心地の砂の中にあった「それ」だった
しかも・・・実験前よりも増殖していた
破壊されない、死なない、ウィルス
増殖する能力を持つ・・・それだけははっきりした
将来どんな厄災が人類を襲うのか?
結論は早かった
保管されていたウィルスは厳重にコーティングされ
宇宙に破棄される事となった
さらば!
宇宙の隣人よ
ファースト・コンタクトは友人ではなかったのか・・・
***
その頃、地球の様子を眺めていた「隣人」がいた
彼らは地球に向けて発信した素晴らしい贈り物が
有効に使われなかった事にがっかりしていた
どうやら地球人と言うのはまだまだ未発達な種であるらしい
我らが送った「万能ウィルス」を宇宙に捨ててしまうとは!
それは無害で、使い方によって色々なものに加工できる
適度に増殖できるし、死滅しにくいので
資源不足の地球にはこれから、とてもやくにたつだろうと
思っていたのだが・・・
まあ、いい
少し未来、もう少し彼らが「発達」したら
このウィルスの意味がわかったら
もう一度おくってあげよう
***
遠く離れる宇宙の「隣人」
だが彼らは知らなかった
地球人は無知なのではなく
臆病であるのだと。
それゆえに、善意を想像し、信じる事はできないのだと。
地球人はその臆病さゆえ永遠に宇宙の孤児である
**************
今鳥インフルエンザが世間を騒がせていますね
会社でも「鶏肉も卵も牛肉も食べてないわ」
という人もいます(うちは平気で食べています
インフルエンザだというなら、生体から感染すると思うから
煮たり焼いたりすれば心配はないと思うんだけど?
報道でも食べても大丈夫といっているし、ね?)
風評被害・・・
それを今実感しています
これだけ「食べても大丈夫」「冷静に」と言っているのに
買い置きの卵を捨ててしまったり
近所のスーパーでも「鶏肉が売れなくなっちゃった」というし
身近にもこんなに心配する人がいるのだから
全国では・・・すごいでしょう。売れなくなっちゃうよね
業者さんの苦しみが見えるようです
誰でも怖い病気にかかりたくはないけれど
噂に惑わされないように気をつけたいです
2004/3/10
悪意がいっぱい
眠い目をこすりながら、私はベッドから降りた
退屈ないつもの朝だ
これから向かうところはもちろん、会社と言う名の牢獄
スイッチを入れるとTV画面から変わり映えのない顔
ニュース・・・ああ退屈 たいくつ タイクツ
今日の事件は繁華街で起きた無差別殺人だった
「ふーん」興味もない、が次のアナウンサーのコメントに
私は画面の方向へ顔を向けた
「最近の犯罪傾向は軽犯罪が増えています
また、犯行後の意識が高揚するのではなく
むしろ活力の低下をしている者が出てきているのが
気になるところです」
犯罪の減少?
ありえない言葉に私は不安を覚えた
私達の世界の基本 悪意
それを無くしたら人類は生きてゆけないのだ
人類を支えているもの
それは悪意であって
人を常に攻撃していたい
同胞を破壊しつづけたい
小さな子どものいじめから
大人の凶悪犯罪まで
人の狂気と攻撃性は止むことは無い
幼い頃
小さな虫を引き裂いた時
心臓の鼓動が早くなった
ホラ・・・
人は誰に教わらずとも
悪意を本能に持っている
攻撃の対極には防御がある
チカラ対チカラ
自分の身を守る為には
自分でそれなりの力を持たねばならない
悪意はそうして人類を鍛えてきた
知性の源は悪意だ
刑罰とは何か
それは犯罪という人類の最も好きな行為を
コントロールする為だけに存在する
そうして成り立ってきたこの世界だが
いつの時代も必ず少数であっても存在する不穏分子
彼らは増減を繰り返しつつも常に世界の一部にいる
殺戮も破壊も虚構も彼らは否定し
「善意」で成り立つ世界を夢見ている
人に対する「やさしさ」「思いやり」彼らの口にする言葉だ
善意?フィクション小説でしかありえない心理
例えば彼の言う「やさしさ」は社会生活上のテクニック
なのに彼らはファンタジーを求めている
善意と言うものが世界の大半を占めたなら・・・
世界は崩壊するだろう
なぜなら・・・善意には力がないから
私は家を出た
時折見かける町の罵声、怒号
これがあるべき世界
さあ、私もこのサバイバルに勝とう・・・
*****
支離滅裂ですみません
不気味な事件や無秩序な事件が多くて世の中は
こんなにも悪意が多いのか、と落胆したりしますが
考えてみると世の中の多くは、善を願っていて
でも、うまくいっていないだけ・・・ではないでしょうか?
それでも、何割かは必ず悪意が存在しています
いつの時代も。それは社会だけでなく
人の心の中にもあって、善意だけの人などきっといない
誰でも悪意も善意も混在して、そのどちらが多いか
という問題かもしれません
ただ社会も心の中も、善意の分量が多い人が
多いのだと・・・だからかろうじて社会は機能していると
思っています。うん。人の善意、やっぱり信じたい
だから逆の世界を話にしてみましたが
どうにもうまくいきませんでした。オチも思いつかなかったし
でも、善意は悪に勝てない・・・最近のテロなどを見ていると
本当にそう思います。悪は必ず滅びる?いえ、滅びないでしょう
でも悪の栄えたためしはない、って思いたいです
もしも悪意の世界があっても100パーセント悪意、はきっとない
そこに必ず「善意」があるんじゃないかなあ
2004/1/26
不老不死のクスリ
「ママ・・・」そう言うとそれ以上彼は言葉も言えなくなった
私の手を握る力ももはや無い
死にゆこうとしている我が子を前に
私はなす術もない
できるものなら、代わりたい
この子に架せられた死の旅路を・・・
今私に出きることは?
共に死ぬことしかできはしない
そんな私の嘆きが呼んだのか
それともただの気まぐれか
・・・神はやってきた
いや、悪魔だったのかもしれない
私には、そんな事はどうでも良かった
「これをやろう」
彼は小さな小瓶を置いた
「命の薬だ。治らぬ病は無い
飲んだ者はさらに、永遠の命を与えられる事となる
しかし、この薬はひとり分だ
分け合っても効果は無い」
不老不死の薬
永遠の命!
我が子に飲ます事にためらいが無いはずだった
軽いめまいと共に目の前に広がる光景を見るまでは。
それは私達も、隣人も死に絶えた時代
変わらぬ我が子がいた
彼は私達の墓石を抱いて泣いていた
そして・・・いつしかヒトも世界も死への旅に出た
そこに・・・ひとりで立っているのは
我が子だった
永遠の命の代償は永遠の孤独だ
我に返ると目の前に苦しむ子の姿があった
私は・・・瓶を手にとった
我が子を失いたくない
世界中を殺しても、生きていて欲しい
それほどに、失いたくはない
でも・・・さっき見た幻の永遠の孤独
彼を永遠の孤独と言う地獄に落とすのか?
私は小瓶を割った
息子の傍らに寄り添った
このまま・・・ふたりで、眠ろうと思う
永遠の孤独ではなく永遠の絆を・・・・・
2004/1/22
*********
難病でお子さんを失った人の話しに、涙しました
一方臓器移植などで、一命を救われた話しもまた
考えさせられたし、先日話題になった芸能人の
代理母を使っての出産など生命倫理や巨額のビジネス化等の
問題点も指摘され、賛否が分かれています
(私はどちらも反対ではありません。問題は大きいですが)
例えば、自分自身より失いたくない息子が
臓器移植などでしか助からない病なら?
迷わずその道を選ぶと思います
リスクも大きい・・・でも、生きていて欲しい
倫理を飛び越えて・・・生を願うと思います
そんな時のリスクの大きさをお話にしたかったんですが
うまく書けませんでした
ネタに無理があったよね(笑)
地球最後の男なんて誰だってイヤだし・・・
このショートだけで話すなら
やっぱり地球最後の男になって、死ぬに死ねないという
悲惨な状況ならば今死んだほうがマシかなと。
でもそれでは私が辛すぎます
だから心中ってことで完結しました
こんな話を書いたけど、死に急ぐ気はないです
私は死にたい人間ではなく
生きたい人間ですから・・・
ちなみに不老不死薬・・・自分だけでなく
たくさんあれば飲みますよ。仲間と生きていられるから(笑)
2004/1/22
夢の実
霧の立ち込める森の中にそれはありました
言い伝えによるとそれは森のあちらこちらにあって
地面に落ちているもの、木になっているもの、中身が割れて見えるもの
色々あるといいます
けれど始めは全然見えませんでした
足元にもあったというのに、深い霧で
そんな近くさえ見えなかったからです
見えない森をやみくもに歩いていると
疲れて、もう帰ろうかな・・・何もないじゃない・・・うそばっかり
と投げやりな気持ちになってきました
始めからあてにしていたわけじゃない・・・一息ついたら帰ろう
そう思って湿り気の少なそうなところに座りました
空気はひんやり、鼻を通っていきました
焦って歩いてきたので空気さえ味わう事もありませんでしたが
こうしていると町と違う空気の美味しさがしみて来ました
座っていると地面もよく見えてきました
あ!
そこらじゅう実が・・・色々な実が・・・あるのです
私は夢中で拾いました
持ってきた袋にめいっぱいつめ込みました
そして・・・ひとつを食べてみました
実は私に、ある未来を見せました
私はまばゆいドレスを着て王子様と結婚していました
別の実を食べると、紫の衣をまとった高位の魔法使いで
世の災難から人々を救っている私がいました
別の実は国を勝利に導く英雄
別の実は病人に尽くす白衣の天使
気がつくとあたりには私の食べた実の殻が散らばっていました
また拾えばいい・・・そう思って歩くと
霧のない乾いた空き地に行き当たりました
実は・・・どこにもありません
実は?ひとつでもいい!実を下さい!
そう叫びながら何もない地面を手で掘っていました
爪が剥がれ指はひび割れ、それでも・・・掘りつづけました
するとひとつの実が出てきました
あった!私は夢中で開けようとしました
けれど・・・堅くて割れません
どんなことをしても、それは割れず中身は見えません
私はそれを投げ捨てました
こんなもの!中がわからなければただのカスよ!
でも・・・拾い上げました
それを持って帰る事にしました
もしかしたらこれは空っぽでも入っていないかもしれない
良くない中身だから割れないのかもしれない
ならば・・・持って帰る価値はない
でも・・・その実は捨てられずに袋の中でゴロゴロと
転がっていました
その実はいつか割れるんでしょうか?
中は何でしょうか?
それとも・・・割れないままでしょうか?
私は・・・待とうと思います
いつか・・・・・・もしかしたら・・・・・何かが・・・・・・
あなたが持ちかえった実は割れていましたか?
もしかしたら花を咲かせていたりして?2004/1/8