しょーと☆すとーりー
今、自発呼吸もままならないままにその命を、文字どうり機械に生かされている私の家族。生きていると言えるのかという疑問。 立ち尽くす私の肩ごしに、私を呼ぶ声が聞こえた。ぼんやりする私の頭に白衣が見え、彼が医師である事をやっと理解できた。まるで映像を見るかのようにぼうっと、彼の後に廊下を歩き、どこかの部屋に腰掛ける・・・ 「・・・・・という方法があるのですが、この治療を選択されますか?治療とは言えないかもしれません。ご家族が患者さんをご覧になっても、今までと変わらない状態にしか見えないし、病状が改善するわけではない、けれど患者さんにとっては、自由を手に入れる唯一の方法なのです」 ぼんやりと説明を聞いていた私は現実にもどってきた 医師の話から、高齢だし、病状も回復はない、けれど新しい処置を施す事により、脳の一部が活性化し、ある部分は不活性化し、それによって昏睡ではなく睡眠状態となり=夢を見る、という 例えば、若い頃の自分が恋愛をしたり、仕事に打ち込んだり、自由に体の動く時代にタイム・スリップできるわけだ ただし、この治療後は睡眠から目覚める事はできない。死ぬまで。 若い人ならば迷うだろう。万が一の回復を信じたい 私は決心した 「よろしくお願いします」 翌日ベッドに立った私はその表情の微妙な変化に気がついた。今まで何の変化もなかったのに、その時目じりは穏やかに下がり口元がほころんでいるかのようだった。固定されているチューブが見えているのに、その変化が見て取れた・・・ 驚く私に、医師は言った「夢を映像として映し出す事も可能です。ただプライバシーの問題があると思われるので、ご家族とは言えお見せしていいものかどうか、私たちも判断しかねますが、強く希望されるご家族には映像をお見せします」 見てはいけない・・・と言う気持ちもあったが、見てみたかった。 私だった。笑う私、怒る私、後姿、横顔・・・あらゆる角度で私がいた。そして、たぶん倒れる直前ころの映私・・・口ゲンカをした時の、ブツブツ文句を言う私・・・そんな私が映し出された時でさえ、チューブをしたままの口が微笑んでいた 私は・・・私は・・・こんなにもあなたに思われていた。私はこんなにもあなたをしあわせにしていた・・・ この治療をやってもらって、良かったかどうか、正直わからない。老いていても、もしかしたら、もう一度目覚めて、私を呼んでくれるかもしれなかった。でも、もう目覚めない・・・ ごめんね、ありがとう 今の私にはそのふたつの言葉しかない 立ち尽くす私の手を小さな手が握った。私はその手を握り返す。 あとがき 昨年私の母が入退院を繰り返し、舅が倒れたり、で病院に頻繁に行くようになりました。そこでびっくりしたのが患者さんの高齢化です。当たり前かもしれないけれど、私の若い頃は病気や怪我という患者さんが多いので年齢ももっと色々な感じだったけれど(友達の怪我や家族の病気で昔病院に顔を出していたから様子がわかる)今は圧倒的な高齢化を感じます。 そんな中高齢者の患者さんは寝たきりが多いようで、ベッドで寝て天井しか見えなくて、あのまま死ぬまで?だとしたら辛いなと。 私の母は入院中退屈で、テレビしか娯楽もないし、部屋の埃に目がいったり(細かい人ではないのに)どうでもいい事に気が行くようになってしまいました(笑) 2010/7/19 |
信じられない。この人がもう治らないなんて!そう告げられた日からどのくらい経っただろう。私の病院通いも日常となり、生活の一部となっていた。そんな時、高齢者の患者などに施される治療、俗に言う「夢治療」を私も考え始めた 二度と目覚めない事になるが、しあわせな夢を見ながらの睡眠状態 この人と一緒にいてしあわせだった。やさしくしてもらった。もう治らない、意識も戻る可能性も低いならば、彼のしあわせのためにも夢治療をしてあげたほうが、いいのかもしれない 若いから、という事に躊躇する医師を説得して夢治療を頼んだ 彼はしあわせな表情を浮かべ始めた・・・良かった ある日病院を訪れた時、ある病室のドアが開いていた 私も!見たい!彼の見ている夢を! 医師に頼んだのだが、なぜか許可されなかった。原則として映像公開は血縁者のみ。患者が経営などに携わっている場合や犯罪者など重大な場合でなければ他人には公開できないという なぜ?妻なのに・・・私の怒りは医師に向ったが法律を盾にとられると引き下がるほかなかった。 私はこっそりと映像を見る方法を調べ始めた。そしてある日休日で病院が手薄になった時、パソコンを運び込んだ・・・ クリックされて出てきた映像に私は凍りついた。彼の寝顔に浮かぶ微笑は・・・私の映像ではなかった。そこには会社の後輩だった女がいた。しかもベッドで微笑んで横たわっている。場面は変わって私の顔が一瞬映った。その一瞬の間に見るケータイ、そこには「明日会えるネ 今度は泊まって!」の文字が・・・ 数十分の映像は一人の男の浮気のを映し出す隠しカメラのようだった 私は彼の点滴を引き抜こうと思った・・・が、何もせず病室を出た 数日後私は彼の機械を自分の持ってきたパソコンに繋ぎ変えた ネットにこんな危険なプログラムがあるという事はそれだけ夢の映像を見てショックを受けた人が多いのかもしれない 彼の眉間にしわがよる。ぐぅという唸りが聞こえる 私は病室を後にした。明日もまた見舞いに来なくては。 夢見る人生の話を書いたとき、ふと、人の頭を見るのだから、イイコトばかりではないよね、と思いまして、こんなコワイ話に(笑) 例えば嫁姑とかも、仲がいいと思っていた姑が嫁にわら人形の呪いをしていたり、ダンナが浮気してたり、知りたくない事も多いかも 2010/7/19 |