ショートもどき(創作話)


本当の自由


恋人たち (2001年 39歳 今作った 笑)
恋人の事故を聞いたのは、夜中だった
何を言っているんだろうと、頭はそれを受けつけなかった
無理もない。愛するその人はついさっき私のこの部屋から
帰って行ったばかりなのである。まだ暖かい彼の感触が残っている
その彼が?
病院に行くと面会はさせてもらえなかった。絶対会いたいと
訴えたが「今はダメです」身寄りのない彼にとって自分は
唯一の面会の権利があると主張してみる、が、
「容態を観察してからです」
数日後病院に行くと彼は特別室に移されたという
面会は可能だがそれを彼自身が望んでいないというのである
そんなはずはない、そんなはずはない、そんな・・・・・・
私は呆然として家路についた。家に帰っても何も食べる元気もなく
明かりもつけずただ部屋に座っていた。ふと病院でいわれたことを
思い出した・・・「どうしても話がしたかったらここにアクセス
して下さい、そういう患者さんの伝言です」
アクセスって・・・?私は無性に腹が立ってきた
ケガの心配をして眠れぬ日を過ごしているのに彼は呑気にキカイを
いじっているのか。そんな事をする前に顔を見せて安心させて
くれるのが恋人でしょ?恋人・・・もしかして私は彼の
恋人ではないのか?他に彼には愛する人がいたのか?
私の不安と妄想は段々膨らんでくる
そしてその不安を振り払うかのように私はPCの電源を入れた
ディスプレイには私に宛てた彼からのメッセージがあった
ケガは重く命は助かったけれど、もう一生病室から出られそうにない
自分の事はあきらめて他の人を見つけて幸せになって欲しい
そんな内容だった。繰り返し繰り返し読む・・・いや!いや!
納得は出来ない。例えどんな体であっても、こうして
彼の言葉を聞ける限り私は彼の恋人のはずだ
やりきれない思いで舐めるように見ていると隅にこんな文字があった
「もしも、の、チャット」もしも?もしもあきらめきれない時は、
という意味なのだろうか?彼のこんな小細工に腹を立てながらも
私は入っていった・・・・・・
そうして数日間やり取りをした。彼が本当に重篤な状態である事
器械の助けで生きている事、なによりも風貌が変わってしまっ事
それはわかった。私は決めた。キーを叩く・・・・
「会いたい。絶対に!」
彼が渋々面会に応じると言ったのは「もしも僕を見て怪物だと
逃げてもいい。もちろん別れるから」という彼の覚悟だったろう
病院に着いた。受付では私の氏名を確認すると案外すんなりと
入室許可をくれた。そして・・・長い廊下の隅の一室のドア・・・
彼は?どこ?天井から綺麗な声がした「僕はここだよ」
そこには黒い箱が置かれ幾つもの配線がされていた
天井にスピーカー、箱の近くにビデオカメラ・・・これは?
静かに彼(だと思う、声は彼のそれではなかったが、話し方は
紛れもない彼だ)の声がスピーカーから流れてくる
「その箱の手前が開くようになっている、開けてごらん」
言われた通りに手をかける・・・そこには・・・?
アッという自分の声に驚いた。そこにあったものはヒトの脳らしき
組織と器械群の塊である。私はつぶやく「まさか・・・あなた」
「そう。本当は死んでいたくらいのケガだった。でもこの病院の
チームは数年前から脳の損傷のない、あるいは少ない患者で
体はもうだめだという者を生かし続ける実験がされていたんだ
これが成功すれば優秀な人が万一にもケガをしても、その頭脳は
保存できるからね。僕はその布石だ。もちろん僕は拒否できる
病院は僕に確認を取ったよ。君には死ぬ権利もあります、と。
それは簡単な事だ。普通の治療をすればいいのだから・・・
僕はこんな機械になるくらいなら死んだほうがマシだと思った
だが、生きてれば色々な事を考えられる。そして僕にできるのは
考えることだけ・・・考え続けたい、怒りたい、悲しみたい
僕は器械に生かされる事を選択した」
私は目を閉じた。彼を、この姿の彼を愛してゆくのか?
恐かった。彼が・・・私は病室を飛び出した・・・何故?
エレベーターでなく階段をトボトボ降りていく
すると階段の近くの部屋から若い女性の笑い声が聞こえた
恋人の看護をしているようだ。怒りと嫉妬でその部屋に向った・・・
すると・・・そこにはベッドに横たわる青年がいた
私は思わず彼女を見た。彼女は私が目に入っていないようだ
かまわずお喋りを続ける彼女「でね、部長ってもうムカツクのよ」
彼は半分開いた口と目はぴくりとも動かない
しばらくして彼女が「じゃあね、また明日。あの看護婦さんあなたに
気があるみたいよ。浮気したらひどいわよ」彼女はいいながら
彼の体にそっと頬ずりする・・・アイシテル・・・
彼女が去った病室で青年の体に触れた。温かい。微かに上下する胸は
肉体が生きている証拠だ。しばらくすると医師がやってきた
「関係者ですか?」「いえ。迷ってしまって・・・」
私の顔を見て医師は納得したように言った「ああ。特別室の・・・
恋人の方ですね」そして目の前の青年がもう数年この状態で
回復の見込みはないという事毎日通い続ける恋人の事、を語った
医師は言った「あなたの恋人はもっと違う状況だ。でも、本質は
同じかもしれません。彼はあなたの将来を心配していますよ
私たちのやっている事は自然に背いている、でも、これから
不自然な形で、生きると言う事も増えるでしょう、不本意でも。
その時本人も周りも辛い・・・でも、生きる事は意味があるはずだ」
お喋りが過ぎたようだと医師は言った
私は青年の病室を飛び出した。彼女は彼の命の宿った肉体が必要なのだ
血の通った温かい体・・・それは彼であって、彼女の永遠の恋人だ
私は?さっき見たグロテスクな箱の中を思った
もう彼には暖かな肉体は無い。あの青年のような鼓動も無い
でも・・・そこに確かに彼の意思はある。彼の言葉がある
彼の・・・命はある。私は彼の言葉を受け取り続けたい。
私は彼の病室に飛び込むと言った「まったくカッコ悪い箱!
病院てセンス無いわよね」そういって黒い箱に触った
「配線だらけで抱きしめる事も出来ないわ」
そうして、私は想像する
何十年の月日が流れる。器械の彼とケンカする私は箱を蹴っ飛ばす
箱にマジックで落書きをする、時が過ぎ私の頭は白髪になる
やがて肉体が弱ってくる、私はたぶん肉体と老いて死んでゆくだろう
彼はその時どうするだろう?一緒に死んでくれる?いいえ、きっと
彼は生き続けるだろう。脳の限界のその日まで。生きる意味を探し。
白髪の私が病室に向う、その時あの眠る青年の傍らに
白髪の恋人が楽しそうに話しかけているだろうか・・・
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長くなりました。昔友人が書いた脳(ほとんど器械)の話と
人は何を愛の対象にしているか、を考えていたらこうなっちゃって(笑)
例えば脳死・・・脳は死んでも肉体の温かさは確かに本物です
ずっと肉体を傍に置きたい、それは患者さんの家族の切ない願いでしょう
また一方でもしも精神(脳)はそのままで肉体が消えたら?
あなたはその人を愛し続けますか?愛し続けられますか?
話題の映画「A.I」ではロボットの子どもが描かれているけれど
(現代版ピノキオですね)キカイは愛せないですか?
温かい肉体が無い事が愛も奪うのでしょうか?
ムスコを見るとやっぱり言ってしまう「お前ロボットでも好きだよ」
・・・ムスコ・・・何言ってんだか、と知らん顔(笑)
もしも今ご家族などが病気やケガで治療されている方がいたら
ごめんなさい。この作品でお気を悪くされたらお許し下さい

世界一の女
今年のコンテストの優勝は私だった
この1年に私を買ったお客の数は世界一
私は文字どうり女の頂点に立った
私を賞賛する男の言葉、金の束、目に見える自分の価値
客のつかない女たちの選択は平凡に特定の男に隷属する
「結婚」という制度も醜い魅力のない女たちには必要なのだ
過去の愚制度と廃止論も出たけれど、存続したのは
こういう不細工な女たちのために残したんだろう
私の目線だけに金を出す男もいる
でも魅力のない女は容姿やセックス以外のサーヴィスも
しなければ食べていけない。床を磨き料理を作る
箱のような小さな部屋で・・・
さあ、私は久しぶりの休日をどう過ごそうか
それが今の悩み
来週の予約は、大統領だった
昔はそれもスキャンダルと言われたそうだけどナンセンスね
公金でなければ誰とデートしようが関係ないでしょう?
世界一の女の胸元には数億のダイヤが揺れていた
ずっと昔、母親が肩身に残したペンダントはその豊かな胸に
ふさわしくはない。どこで無くしたかも覚えてはいない
母に美貌の肉体に産んでくれたことは感謝していると
微笑んで窓から見る空にウィンクした
*********
えー、体を売ったの数が多いほど価値がある、という設定に(爆)
もちろんネタ元は公金の横領犯の妻、事件ですが、
目に見える数字で人の価値が計れるならば?
やはり良い事ではない気がします
自分の価値って考えたことありますか?通信簿や営業成績など
目に見えるもので無い限り、(特に同性や団体でなく対異性の場合)
あいまいで自己判断によりますね。他人の判断もまたアヤシイ
モテナイ、モテる、とテンテコなものさしに、お年頃には悩む
高校で。モテる子がいてちょっとうらやましく思っていたんですが
男子の話を聞き、そのひとことでモテるという意味が変わりました
「あいつすぐやらせるぞ」盛り上がる男ども。必ずしも彼らは
「好き」で付き合うのと違うんだなと認識。男ってオオカミだなと
最初に感じた出来事でしたー。数でモテるかを計るのは「違う」と
若いあなたに、言っときましょう(説教 笑)

われはナンバー
私は今病院にいる。オーバーワークで静養が許可された
順調に体力は回復している
回診の時間。今日の当番はナンバー46376982の子か?
だといいなと密かに期待している
本当は体よりもこのところのすっきりしない気分が気になった
より良い環境、より良い自己、それらは行き届いた管理による
いい時代だ。古い時代考えて失敗した全体主義ではなく「個人の」
尊重により逆説的に達成されたのは皮肉なことだが(笑)
個人の要求は何でも叶う。例えば人を恨み殺意が生まれる
昔なら我慢するか、行動して殺人犯になるか、しか選択肢は無かった
今は違う。殺意は我慢せず行動前に「ハコ」に入ればいいのだ
そこで、実行される殺人。実はそれはバーチャルな脳だけの幻影だが
自分の殺意を達成することの満足感と同時に、殺人と言う愚行への
反省、さらに、実際には殺人をしていないと言う安堵・・・
精神ケアを最後にしてもらい「ハコ」から出る
すると何の心残り(ストレス)もない最良の精神状態で生活できる
社会秩序というのは個人の欲求を我慢してまで守るべきルールだが
より良い「社会」ほど個人は小さくなる。するといつしか個人の
欲は社会そのものを壊すのだ「もっと食い物を!」「もっと金を!」
人の強欲さ故に社会は壊れ、人も壊れる・・・
だが、個人の欲求への徹底という「極 個人尊重主義」が流行
このとんでもない(と昔21世紀あたりの人なら言うだろう)思想が
世界を救った。自分が死にたくないから、戦争をしない
自分が食べたいから食を生産する、自分が・・・自分が・・・
長い間人を罪悪感に縛っていた「利他主義」「自己犠牲」「人類愛」
などのまやかしから、人は解き放たれた
本当は自分だけが一番なのだと、それを表現する事が美徳となり
自分を満足させる事は常識となった。満たされた故に他人への
攻撃や搾取は減る・・・
今「わたし」には名前が無い。自分が、自分の要求が通るのだから
名など要らない。ただ医療ケア、買い物などサーヴィスには
個体の識別がいる。そのためにナンバーが個々人にあてられた
合理的だ。自分が世界の中心なのだから名など・・・・・・
夢を見たことがある
恋人(古い言いかただ。肉体的、精神的接触を持つ他人という
言い方が正確)が私を見て微笑む。要求はなんだろう?
何がほしいのか?だが夢の中の彼女は何も言わない
「名前を教えて」彼女の白い指が私の唇をなぞる
名前?ナンバーだろう?住所も連絡も全て楽につながる
「そうじゃないの。あなたを好きと言う時の名」
そう、あの夢を見てから私は気分がすぐれなかったのだ
馬鹿げた夢
個人とは、私とは?不合理な時代の不合理なシステムの残骸だ
ナンバーひとつあればいい。名など要らない。欲しくも無い
私は女の夢を振り払うように、ハコの予約を入れた
ハコから出る時にはくだらない夢などもう、思い出しもしないだろう
・・・さようなら・・・どこかで女の声がした
**************
いかにも見え見えの住基ネットがヒントって感じ(笑)ですが
実はどんな安定した社会システムもきっとうまくは続かなくて
個人の不満で壊れるんだろうなあと、いつも思っているのを
話にしました。人と比べてシットする行為自体が自分が人より
多くを持っていたいというエゴでしょう。十分腹を満たしても
「隣はもっとうまいものを食べている」と悔しいわけです
ひいては国同士の利権争い(戦争や経済摩擦)になったり。
どうしても本当の意味で人は利他にはなれないのだと、思います
まあ、競争心から生み出されるものもまた多く、スゴイのでしょうが
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