悪友からの読書メモ(1992年モノ)***************

1992年読書案内一独断と偏見による1992読書録一

はっきり言って、私は本を読むスビードが遅い。性絡的にか、頭か悪いのか
とにかく速読ができないのだ。どうも私は、文章を頭でビジュアル化しないと
理解できないらしい。故に速読をすると、記億に残らないのだ。誠に不便な頭である
そんな私が、今年は年間80冊近い本を読むという、快挙を成し遂げたのだ
通常の年の倍であり、更に途中で、観賞に耐えられなくなって放棄した本も含めると
なんと、ほぼ100冊3桁の大台に乗ったのだ。スバラシイ!!(自画自賛)
そこでこれを記念し、独断と偏見による読書録を作ることにし、今後梅している
なぜなら、あまりにも偏った読書傾向であることが、判明したのであった。
でも私は負けない、どうせ私はプロじやないもん.これを機に、周じ趣味の人は
それなりに、そうでない人も、私の趣味に走って下さい


注:著者名の後の*は彼女のオススメ度らしいです りん


「蜘蛛女のキス」 プイグ *****

南米の近代文学。最近日本でも、映画や舞台になった作品なので、
知っているかもしれない。反体制の男が投獄され、同室になった同性愛者との
やり取りを中心に描かれている。やり取りと言っても、衰弱した男にゲイの男が
映画のストーリーを語るシーンが多くを占めている。映画や舞台の宣伝で
なにやら同性愛物のイメージが強かったが、自分とは異質な者を
1人の人間として信頼していく過程の物語かな。後半は、出獄したゲイを中心に
話が進んでいく。この本は少し変わっていて、本文の注釈、主に同性愛者の
学術レポートと、映画のストーリー(ゲイの記億の曖昧さと、趣味による脚色を
補うためと思われる)の量が本文と同じ程もあることだ。私が一番考えたのは、
解説の部分を読んで、南米について何も知らないと言うことだ。この作品が
描かれた背景、歩んで来た歴史(近代)について。
まさに南米は、日本にとって、地球の裏側の国なんだなあということだった。
以前読んだ「1984」に近いイメージをもった。


「プランコ」 橋本治 ***

桃尻娘以来、何年かぷりで読んだ治ちやん。古典の現代語訳で話題を振りまいた
治ちやん.治ちやんは健在でした。桃尻を読んだ時、この人は、
文字を視覚に訴える作家だと思ったけれど、この作品はそれを極めてしまった。
例えぱ、沈黙を表現すると、普通は「2人の間に長い沈黙がながれた。」と
文字化するところを、橘本治は文字を書かない、ただ真っ白なぺ一ジが、
延々と続く。こ作品は、小説と言うより芝居の台本。それも、1人の台詞だけを
抜粋した台本、台詞以外は、取り去った台本と言う小説。実際6つの章に
別れていて、「陣」の2つの章に、ごく短い動作の表現があるのみなのだ。
内容は、ごくありふれた男と女の話。男と男の話もあるけど。要するに、
内容ではなく、文字の表現方法に*1コおまけ。


「居酒屋ゆうれい」 山本昌代 ***

構浜の裏路地で、細々と居酒屋を営む男が、女房を亡くす。
死際に、もう結婚はしないと約束をするが、後妻をもらう。すると死んだ女房が
・・・という話。だからと言って、この先妻の幽霊が、根みつらみで
崇る訳でもない。最初は男も後妾も気味悪がって、成仏させようとするが、
次第に3人の生活に馴染んでゆく。はっきり言って、盛り上がりの無い
淡々とした小説で、そこと幽霊のキヤラクター(店のお酒は飲む、夫婦の
夜の生活を覗き込んで、こんなおかしな格好をしてたんだと笑う、おまけに、
何でここに居るのかなんて判らないと言い出すトンでもない奴)が気に入った作品。


「源内先生船出祝」 山本昌代 ***

初めて読んだ彼女の、一冊一編の作品。印象は、長編向きではないなだった。
山本の淡々とした作風が読んでいてしんどさを与えた。敢えて挙げたのは、
TVでお馴染みのヒーローの実像が描かれているため。名声欲と嫉妬に
さいなまれる、晩年の平賀源内像は、今まで与えられていた、天才学者の
イメージをぶち壊してくれる。子供の頃読んだ、偉人伝に、不満と疑惑を
持っているむきにお勧めの本。


「文七殺し」 山本昌代 ***

これも山本の長編作晶。許婚者の文七に対する、古着屋の娘の愛情の形を、
娘の側から描いたもの。ほとんど娘の心理描写なので、時代物の印象が薄いが、
山本は現代より江戸時代を舞台にする方が、良いものを書いている気がする。
題名の通り、最後には許婚者の文七を殺すのだが、そこに至る娘の心理は、
一見異常な狂気に見えるが、一つ一つの理由は判らなくもない。
こういう心理物は、淡々とし作風の方が何だか怖い。


「日本妖怪巡礼団」 荒俣宏 **

東京・神奈川・伊東・筑波にわたる妖怪マップ。完全に私の趣味なんだけど。
傑作だったのは、筑波のジョギング幽霊の話。ま、良けれぱ貸しますので、
ここだけでも一読を。多分これは、以前TV番組1だったのを、
本にまとめたのではないかと思うのですが.


「稀書自慢・紙の極楽」 荒俣宏 ***

荒俣は古書マニアだった。西洋の古書を中心に、その歴史と、如何にしてそれらの
本を収集したかという、興味の無い人には、徹底的につまらない本。実は私も、一
部分しかおもしろくなかった。では何故に挙げたのか、しかも***もあげて。それ
は、この本がキレイだから。内容ではなく、目を楽しませてくれる類の本なのだ。
例えぱ、きれいな写真や、絵の満載された子供百科とか、自分の好きなものが、沢
山載っているカタログだとか、ただ眺めていて、時々興味を引いた物の解説を読む。
あの楽しさの味わえる本がこれです


「プライヴェート・ゲイ・ライフ」 伏見憲明 ***

超有名人でもない男の、等身大のカミングアウトの本。自分史、家族との付き合い、
恋人との生活から、色々なゲイの事、ゲイ御用違のPlaySpotなどなど、あ
なたの知らない世界が、繰り広げられています。しかし男と男と言うシチュエーシ
ョンの違いはあれ、どれも男と女のカップルの抱える問題と、大差無いと思う。人
間関係を真面目に突き詰めていくと、結局男も女もそれ以外も、関係なくなると思う。


「鬼が作った国・日本」 小松和彦・内藤正敏 ****

これを読んで、ああなんて歴史の教科書って、ツマンナイものだったんだろう、と
思った。もういいかげん、朝廷中心の歴史観からの脱却を、考えて良い時期だと思
う。教科書だけの勉強だと、日本は遥か昔から、統一された国家だったと錯覚しが
ちだけれど、実際は第二次大戦まで、体制に属さない、戸籍を持たない人達が存在
したんだ。島国である日本は、良きにつけ悪きにつけ、外側に敵がいない。一つの
国家権力が、その機能を維持強化していこうするには、仮想であれ異なるものが
必要になって来る。ヤマト朝廷から長い歴史をかけ、先住民が国家機構に組み込
まれていった。ほぼ国土的に、日本を統一した江戸特代になって、目に見える敵が
なくなると、国家レペルだけでなく、庶民レベルでも内なる敵・異界が泌要になっ
てくる。それを体現したのが、非定住民(人別・戸籍に属さない者)である.そう
いう側から跳めた、日本や歴史が、もらと光を浴びていい。
伝奇物のネタ本として も興味をそそる1冊。


「猫の蚤とり日記」 小松重夫 **

題名の通り、猫の蚤とりの記録である。御本人言うところの、狩猟本能の赴くまま、
飼猫10匹あまりの蚤を取りまくり、ついに根絶させてしまう。しまいには、庭猫
にまで手を延ぱすが、どういう訳か成果か上がらないと、喚くお話。ただし、ただ
の蚤とりの記録ではない。証拠があるのだ。何の証拠かって?決まっているではな
いか、蚤だよ蚤!捕った蚤をセロテープで紙に貼り、保存してあるのだ。是非見た
いと言うのなら、図書館に足を運んでみておくれ。


「女形一代 7世川菊之丞伝」 円地文子***

円地文子の幼なじみである、瀬川菊之丞の一代記。芸の世界に生まれ、そこで生き
る人間を、同じように、芸の世界に身を置いた彼女が描くと、ものすごい説得力が
あると言うか、頭ではなく、心から納得してしまう世界である。概して実話物は、
内輸の暴露話になってしまいがちだが、彼女の文章はとても上品で、文学性も高
い。歌舞伎に興味がなくても、読んで損したとぱ思わないとおもう。


「たまたま・ネコ」 フットワーク出版部 *

猫に関する文章を、あちこちから抜粋して一冊にした物。あまり面自くなかったが、
一文だけ気に入った物があった。室生犀星の娘が書いた、生前の犀星と一匹の猫の
話。猫と人間が、ある種対等に向き合う関係とでもいうのか、相手の人格(猫格)
を愛するというか。猫好きの私としては、とっても憧れる話だった。
いつかこうい う相手に巡り会いたいものだ。


「写楽暗殺」 今江祥智 *****

謎の浮世絵師、東洲斎写楽を扱った物。猿・狂言・浮世絵がキーワードになって
いる。現代と江戸時代を舞台に話は展開するが、読み始めた時、何処が「写楽」な
の?と、ちょっととまどった。でもそれからは、もういっきに読み終わっていた。
写楽自体が今だに謎の人物で、諸説噴々のため」貧料もなく、人物像がはっきりし
ていない。そのためか物語は、彼の知合いの少年と少女の波乱を軸に、進んでいく。
SFとも、推理物とも、ミステリとも、言えるようで言えないけど、とにかく今年
一押しの本。しかし出版はだいぷ以前で、賞も取ったし、もう読んだかも・・・。


「豪姫」 富士正晴 ****

今年話題の、宮沢りえ主演の映画の原作。30年位前の作品で、原題は「たんぽぽ
の歌」。中身は「織部雑記帳」と、「ウス雑記帳」の2部に別れている。「豪姫」
と題していても、話は秀吉の茶頭、古田織部正の後半生が中心になっている。
豪姫はあくまで、織部やウスの目を通して語られるそれでもなお、豪姫の印象は強烈
だ。作中ちょっとずつ、歴史上の有名人が登場するが、この富士正晴という人は、
短い文章の中で実に鮮やかに、それぞれの人となりを表現している。
この本を読んでから、映画が気になりだした。りえの豪姫がどうこうではなく、こ
の本の持つ寡囲気を、どれだけ壊さず伝えているかということに。


「幻想展覧会I」 パトリック・マグラー ブラッドフォード・モロー編 **

ネオゴシックの短編集。1作目の「展覧会のカタログ」スティープン・ミルハウザ
一著が良かっ。私は、題名からして解説の続きかゴシック派の画家の紹介かと
思って読んでいたら、実は小説だったというもの。ゴシック派独特の、舞台描写や
感性にだけ流される事なく、確実な構成なのが気に入った。他4編程収録。


「象は世界最大の昆虫である」 池内紀 編・訳 **

「ガレッティ先生の失言録」と副題がついている。ガレッティは、19世紀ドイツ
の学者で、ギムナジウムの教師をしていた。その授業中や、交際の中で発言した失
言を集めて、本にした物。かなり滑稽な失言をしているが、ガレッティは、当時膨
大な量の執筆があり、百科辞典などを編集した学者であったらしい。私は、授業中
の失言より、悪ガキ達を相手の語録の方が生き生きしていて面白かった。多分彼
の頭の中は、知識が渦を巻いていて、自分自身でコントロールしきれなかったので
はないだろうか、などと思わす想像してしまった。


「深夜特急 第3部」 沢木耕太郎 *****

香港一マカオーマレー半島一シンガポール(第1部)一インドーネバールパバキス
タンーアフガニスタンーイラン(第2部)−トルコーギリシヤーイタリアーローマ
ースペインーポルトガルーフランスーイギリス。著者が、26歳で日本を出発して
1年以上をかけて旅した国々だ。1900ドルを懐に、乗合バスを使ってのユーラ
シア大陸横断の旅。目的はロンドンの中央郵便局から、「ワレ到達セリ」の電報を
打つこと、ただそれだけ。実際彼の旅は、有名な場所を尋ね歩くわけでなく、気に
入った街を歩き回ったり、自分の欲求に従って、ひたすら流れて行く感がある。そ
してついに、ユーラシアの端の島国から、ヨーロッパの果ての岬にたどり着く。こ
の本も1部が出て以来、6年をかけて終点まで辿り着いた。しかし・・・。この話、
最後にちょっとしたオチがある。ふっふっふっ、判る人にはすぐ判る。旅行をすれ
ぱ1泊2日、ノンビリするつもりが、ついつい歩き回ってしまう私には、
一生縁の 無い旅だわ。


「春色天保政談」 多岐川恭***

今年は、十数年振りに時代小説を読み漁った。昔は司馬遠太郎、池波正太郎がごひ
いきだったが、久々の時代小説界には、面白い作家が登場していた。その一人がこ
の人。いつも主役はヒーローではなく、普通の人と言うより、少しはみ出し気味か、
ズバリ悪党。この話も、主人公は旗本の次男坊で、浮世絵それもあぶな絵を内職と
している他は、女たらす位しか能の無い男。そんな男が、
天保の改革の裏舞台に、 巻き込まれて行く。
結構気に入って何冊か読んだけど、彼の小説には多いんだよ、濡れ場が。設定は好
きなんだけど、中には何か、時代ポルノを読んでいる錯覚に、陥ってしまったもの
もあった。でも今は、ポルノ作家でもないのに、よくこれだけ手を替え品を替え、
おまけに想像カをフル活用している氏の、サーヴィス精神(?)をエライナァと思
っている私です。でもそんな作品ばっかじやないのよ(念のため)。


「かぶいて候」 隆慶一郎 ***

江戸初期の旗本、水野十郎左ェ門に至る、三代の話を書きたかったらしい。らしい
と言うのはこ作家、最近亡くなっているのだ。しっかりした構成の、長編を得意
とする人で、何作も途中で絶筆になった物がある。これはその1冊。偶然手にした
l冊で、私は隆慶にドップリ漬かってしまった。借しい!本当に惜しい。氏は一時
期、TVの時代劇を中心に、シナリオを書いていたそうで、そのせいか剣を交える
場面の描写が実にイキイキしている。前記した「鬼の作った国・日本」の視点も
十分に取り入れて、伝奇ロマン的な作品も書いている。


「バベルの薫」 野阿梓 ****

一番最近読み終わったもの。久々に読んだ日本人の書いたSF。光瀬龍に漬かって
以来、トント御無沙汰していたジャンルですが、驚いた。長編とはいえ、一つの作
品にこれだけの引出し(編集がよく言うアイデアや知識のことね)使って、これか
ら大丈夫なのかな。月植民地・サイキック・戦争・政治・歴史・医学・天皇制・日
本人論・もののけ・呪そ・気孔、果ては心霊コンピュータなるものまで登場させて、
私の頭はパニック状態。少々未消化の所は目をつぶっても、充分楽しめるよ。ラス
トの種明かしは意外性があるし。ただ、主人公が姉川孤悲というサイキツクなんだけ
ど、そう、確かにラスト近くまでは主人公なのよ。でもああ言うのも有りなのか、
それともやっぱりあの子が主人公なのかしら。今でも悩んでいる私です。


以上が私の長年の友・・・いや悪友からの読書メモである
こうして読み返すとなるほど趣味も全然違う
共通しているのは互いに、ヘンなヤツ、ヘンな趣味であるという事かもしれない
一応女性となっているがロマンのカケラもない
うーん、私の方がマシ(と彼女も言うであろう)これだけ悪口を書いてもきっと
なかなかメールをよこさない。鋼鉄の筆不精なのである。メールよこせー!
以上 あとがき りんでした・・・

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